そば、蕎麦、SOBER

高校三年間蕎麦屋でバイトし、土日は毎日まかないの蕎麦を食べて過ごした。蕎麦は、私の人生のにいつも寄り添っているのだ。

わたしのなかのプチトマト

「今日はシフト入ってませんが」

やっぱりそうだったか。嫌な気はしていたんだ。

先週急に言い渡されたバイトのシフト、いつもはこんなことないのになと思いながら行ってみれば案の定今日のシフトに私は必要ないとのこと。そんな気がしていたんだ。その瞬間、私の1日のスケジュールが全て消滅した。

突如自由を得た私はどうしたものかと途方に暮れた。いっそのことショッピングでもしてやろうかと思ったが、バイトだと思っていたのでよれよれのTシャツにルーズなパンツ姿なものだから、とても行きたかった古着屋やオシャレなランチに行けるような格好ではない。

 

そうだ、病院行こう。

ずっと後手に回していた婦人科の病院に行くことに決めた。

もう4ヶ月も生理が来ていない。性交渉の経験はないので妊娠ではない。中学の頃から生理不順で、生まれてこのかた月経周期という言葉に縁がない。さすがに心配で、今まで何度か婦人科を受診したことはあるが、ここで書くには憚られるようなひどい扱いを受けてきて、婦人科受診自体がトラウマとなっていた。

最近は生理不順だけでなく胃腸炎にも悩まされていた。脂が特にダメで、マックを食べれば5分後にはトイレに篭りきりになるし、もつ鍋で酒を飲めばすぐに吐いてしまう。揚げ物なんて夢のまた夢で、到底21歳とは思えない老人のような食生活でしか安心できなかった。これはさすがにやばい、メンタルクリニックかレディースクリニックに行こうと思い始めていたのだ。思い立ったらすぐ行動、という私の座右の銘に従い友人が紹介してくれた婦人科に行くことにした。

 

病院は開院前だというのに多くの女性が順番を待っていた。私もその中に加わる。待ち時間に病院の口コミを調べたら星1ばかりでとても心配になったが、とても良い先生だった。今まで何度も受診したことがあるのに、初めてエコー検査と血液検査をしてくれた。

「ここにまるい影があるのがわかる?これがあなたの卵巣です。なかに小さい点々があるのがわかりますか?」

よく見てみると白黒のエコー写真のなかに、プチトマトの断面のようなものが映り込んでいる。かわいいな、と思ったのも束の間、先生曰くこの点々は生理不順の人によく見られる現象なのだそうだ。

初めて自分の体の中を見た。21年生きてきて、自分の内側を見たことがないというのは不思議な感覚である。私の体にも様々な内臓が入って、毎日機能しているんだな。

病院を出ると清々しい気持ちになってきた。肩の荷がひとつ降りた気がした。こうなったらもう今日は自分の好きなように生きてやろうと心に決め、ずっと行きたかったエジプト展に向かった。

現在静岡市立美術館で開催されている古代エジプト展は、世界の技術を駆使してミイラのCTスキャンをし、展示しているらしい。実際に行ってみると、何体ものミイラが(ヘビのミイラまでも!)CTスキャンにかけられていた。この技術を使って得た様々な真実もあるらしい。

今日の私は、幾重にも重ねられた包帯の下のミイラと一緒だった。

紀元前までさかのぼる壮大な時空の旅を終えた後、私のお腹はペコペコになっていた。美術館と同じ建物内に蕎麦屋を発見した。岩久そば本店。静岡県下にいくつかお店を構えているようだ。入ってみれば、休憩中のサラリーマンや私と同じく美術館帰りであろうおばさまたちが談笑していて期待値はなかなか高めである。悩み抜いた結果、桜おろしを頼んだ。

 

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富士山そば 1020円+税

ひとくち食べると、独特な海のような香りを感じた。鰹節・鯖節・昆布がブレンドされた醤油を使っているらしく、初めての味だった。海苔と桜海老も相まって、口の中に海が駿河湾が広がっていた。食後の蕎麦湯も欠かせない。14時ごろに行ったので、蕎麦湯のコンディションは抜群だった。

味も量も大満足。箱蕎麦が目玉らしいので、今度はそちらをいただきたい。

 

とても良い週末を過ごせた。次出会う蕎麦に思いを馳せる。